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幅 : 7.5cm 高さ : 4.4cm
本作には、奈良・薬師寺東塔を令和の大修理で解体した際、心礎(しんそ)周辺から採取された基壇土が調合されております。鉄分と珪酸を多く含むこの古土は千三百年の風化を経て鉱物結晶を宿し、焼成後も石英粒が星屑のように煌めきます。掌に取りますと、大和の大地の息吹と古塔の祈りがほのかに伝わってまいります。
釉薬を掛けず、約1250℃で強還元焼成したことで胎土中の鉄分が独特の紫がかった金属光沢を帯びました。口縁には自然降灰が薄く融け、苔金色のガラス皮膜が縁取りを成しております。外面はざらりとした荒肌、内面はやや滑らかな質感となり、光の角度によって群青・墨黒・紫鉄と表情を変える幽玄の景色が魅力でございます。
口縁をわずかに外反らせ、胴を緩やかに絞ったラッパ形により、酒の香り立ちが豊かになります。低めのリング状高台が重心を安定させ、手取りは軽やか。胴外側に残る轆轤目が素朴なリズムを刻み、焼締め肌の質感を強調いたします。
外肌の微細な凹凸が指先に心地よい抵抗を与え、冷酒を注げば紫鉄色が一段と冴え、燗酒を注げば胎土がじんわりと熱を蓄えて温度を穏やかに保ちます。薄めに研ぎ出した口縁は唇当たりが柔らかく、酒の切れが良いため吟醸香の繊細さを損ないません。
薬師寺は天武天皇の発願(680年頃)に始まり、和銅3年(710)頃に現在地へ遷座した南都七大寺の一つでございます。東塔は養老4年(720)頃に完成し、創建当初の姿をとどめる唯一の奈良時代塔として「凍れる音楽」と称えられております。数度の戦火や火災を経ながらも、令和の大修理で甦ったその基壇土を用いる本作は、悠久の祈りと再生の歴史を酒席に運び込む象徴となっております。
紫鐡に輝く焼締め肌、苔金の自然釉、そして薬師寺東塔基壇土が宿す千年の祈り――尾西楽斎作「焼締めぐい吞み」は、侘びの静けさと崇高な歴史を同時に抱く珠玉の酒器でございます。一盃を口に含めば、炎と土と古塔の法音が盃の奥底からそっと立ち上がり、深い余韻へと誘ってくれることでしょう。
薬師寺境内の土100%使用、不純物を徹底除去した本作は、澄明な美しさが特徴。悠久の時を経た土は均質で、焼成により濁りのない艶と、焼締めでは古瓦のような穏やかな色合いを呈します。滑らかな肌理と歪みにくさも魅力。千三百年の歴史を宿す土の物語が、手に取るたびに安らぎを与えます。素材と美しさ、精神性を兼ね備えた特別な作品です。
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