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幅 : 13.2cm 高さ : 7.9cm
本作には、奈良時代以来の名塔として知られる薬師寺東塔の基壇補修時に採取された古土が用いられております。鉄分と珪酸を豊富に含むこの土は経年で再結晶化が進み、焼成後も石英粒が星屑のように煌めきます。尾西楽斎様は信楽系の荒土に古土を巧みにブレンドし、胎土そのものに古塔の歴史と重厚な質感を刻み込んでおられます。
外面を覆う灰釉は、藁灰を主体に長石・木灰を調合した自作釉でございます。還元気味に高火度焼成された結果、
全面は苔を思わせるオリーブグリーン
口縁に沿って鉄分が赤銅色に発色
縁下には乳白の雫状流れが稲妻のごとく走る
という三重の景色が生まれました。青白の釉垂れは炎が生んだ偶然の造形で、曇天に差す稲妻や夜の塔にかかる雲間月を連想させます。
口縁を外反り気味に広げた鉢形は、薬師寺塔身が天空へ伸びゆくシルエットを彷彿させます。胴部には五条の轆轤目が刻まれ、古塔の基壇石組を思わせる水平ラインを形成。高台周辺は釉を切り、火返りの赤紫がのぞいて土肌と釉景の対照を際立たせます。
外肌の微細な砂味が手指に心地よい摩擦を与え、灰釉のガラス層が生む光沢が掌の動きに応えて複雑な反射を見せます。見込みは灰釉が厚く溜まり、淡い乳白が抹茶の緑を静かに包み込みます。茶筅の当たりは滑らかで泡立ちが細やかに揃い、実用面でも優れた性能を発揮します。
薬師寺東塔は再建・修理を重ねながら法灯を守り続けてまいりました。その基壇土を用いた本作は、「古を抱き、新たに甦る」という再生の精神を体現しております。灰釉がもたらす苔青の景は、長い年月を経た石垣や塔身を覆う苔を想起させ、茶席に悠久の祈りと静謐な時間を呼び込みます。
苔青の灰釉に走る乳白の雫、赤銅に光る口縁、そして胎土に内在する千三百年の祈り――尾西楽斎様の「薬師寺東塔基壇土 灰釉茶碗」は、掌に歴史と炎の偶然を同時に抱く珠玉の一碗でございます。茶席に据えれば、客人は抹茶を通して大和の古塔に想いを馳せ、静かなる再生の物語を味わうことができるでしょう。
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